アラフィフの挑戦

今週のお題「試験の思い出」

 

 子どもが社会人になり手がかからなくなったら、私はどんな毎日を送るんだろう。

 当時メディアでは空の巣症候群(からのすしょうこうぐん)をよく取り上げていた。空の巣症候群とはなにか。子供たちが進学や就職,結婚などで巣立つ一方で、夫も仕事が忙しくて不在がちな家庭を、ひなが巣立った後の空っぽな巣に喩えたものだ。そんな家庭にひとり取り残された主婦が,空虚感や不安感,抑うつ感などにとらわれて心身の不調を訴えるようになる。つまり中高年の主婦が陥りやすい心身の不安定な状態のことを指すそうだ。

 いやぁ、私に限ってそんなことにはならないんじゃないかなぁ。確かに主人は仕事が忙しく、週末に家にいることはほとんどなかった。たいてい仕事で会社に行ってしまうか、そうでなければ仕事の付き合いゴルフに行っていた。平日も朝早くから出社し、帰宅は深夜だ。車通勤にしたのも、終電を気にせず働けるからという理由だったから、本当に仕事一筋、一所懸命に働いていた。

 なので家庭サービスをするのはもっぱら私の役目で、休みになると、忙しいパパの代わりに、パパの分までママである私が子どもを楽しませていた。パレードを見せるために子どもを肩車をして首肩腰がパンパンになったのも、今となってはよい思い出だ。

 家族旅行なんて片手が余るくらいしか行ってない。もっともそんな様子を見かねた私の両親が、可愛い可愛い初孫のために、よく旅行に誘ってくれた。(もちろん私も一緒に(^^))

  はっきり言って、主人と旅行に行くよりも両親との方が気楽だし、宿はいつも温泉旅館だったから、観光しながら温泉でも癒されて、私もよいリフレッシュになっていた。

 閑話休題。そんな私に向かって友人たちはみんな口を揃えて、

ー危なそう!

ー大丈夫?

ーもう遊んでもらえないよ〜

ー寂しくなっちゃうよ〜

と、私が空の巣症候群になるんじゃないか、いや、必ずなる、きっとなる、と言ってきた。

 んー、そう、かなぁ?いやぁ、まさかね。と、それでも私は心配してなかった。

 ところが、である。ご主人が引退している友人から話を聞いているうちにあることに気がついたのだ。友人のご主人はうるさい方ではないのだけれど、それでも友人とランチに行く回数は減ってしまうとか。それに特に用事がないけどなんとなくちょっと出かける、しかも一人で出かけるのはほぼ無理だとか。すぐご主人がついてきたがるらしいのだ。私の主人が引退したらどうなるんだろう?

 主人の性格上、きっと私を束縛するに違いない。私が出かけるとき、主人が家にいたりすると、どこに行くの?何しに行くの?何を買いにいくの?何時に帰ってくるの?と今だってうる、んにゃ、質問攻めだから。主人は自分が出かけたいときは必ず誘ってくる。ゴルフの練習場にまで連れて行こうとする。お誘いを断ると必ず不機嫌になるから厄介だ。

 主人は自分が家にいない時に私が何をしても気にしないが、主人が家にいるときはかなり外出しにくかった。今までは子どものためと言い訳して、ママ友とランチなどにお出かけしていたが、子どもが社会人になったらそんな言い訳はきっと通用しないだろう。

 それまでも友達との旅行は許してもらったことがなく、両親との旅行は親孝行になるからと許してくれていた。子どもが社会人になり一緒に行けなくなったら、両親との旅行は絶望的だ。

 これはまずい!旅行はともかく、息抜きの外出するのも自由に出来なくなりそうだ。そんな事態を避けるために私は仕事を持つことにした。とりあえず仕事で家から出られたらついでにいろいろ出来そうだ、しめしめ。

 私は、生きがいだとか長年の夢だとか並べたてて、主人の首を縦に振らせることに成功した!何に?日本語教師になることに、です(^ ^)

 日本語教師になるには、教員免許などの特別な資格は必要ないし、そもそも国家試験がない。ただし法務省が告示している条件が三つある。

・「日本語教育能力検定試験」に合格する
・学士の学位をもち、文化庁認定の「日本語教師養成講座(420時間)」を修了する
・大学または大学院で日本語教育に関する主専攻プログラムか副専攻プログラムのいずれかを修了する

 

 どれか一つでもクリアすればいいのだが、検定試験の合格を採用の条件にするところもある。幸い試験勉強は得意な方なので養成講座に通い、なおかつ検定試験も受けることにした。

 今思うと、ぎりぎり老眼が始まる前に勉強出来て、本当によかった。試験対策の勉強(つまり暗記)はもっぱら移動の電車の中でやっていた。音声系は過去問や問題集を徹底的に解いた。

 試験当日、1時間目の試験が終わると私はすっかり自信を喪失していた。細かいことは忘れたが、最初の科目でこんなに出来ないんじゃ合格なんて無理だ、今すぐ帰りたくなっていた。試験中に見つけた、前の空席の蟻なんかに気を取られて集中できなかったのが悪かったのだ(と思い込んでいた)

  凹みに凹んでどん底にいた私は子どもに泣きついた。確かLINEで連絡したら心配した子どもがすぐ電話をかけてくれた気がする。電話口で子どもに散々慰められ、せっかくだから最後まで受けた方がいいからと説得されて、私は次の試験に臨むことにした。

 合格を諦めたせいで変な気負いがなくなったせいか、次の音声系の試験は、なんと絶好調だった!え?私、ほぼ満点なんじゃない?

 自信こそなくなったままだったが、すっかり気分が良くなった私は子どもに連絡した。慰めてくれたおかげで次の試験も受けられたこと、受けてみたら手応えがあったこと、せっかくだから最後まで試験を受けて帰る旨、連絡した。

 3時間目の試験は分量が多く時間との戦いだった。あまりよい出来とは言えなかったが、まあもう合格は諦めていたのでそれほど落ち込まずに済んだ。

 試験会場から駅に向かっていると、日本語教師の講座のクラスメイトたちに会った。みんなは試験の手応えが良かったようで陽気に盛り上がっていた。そしてこれからみんなで銀座で飲むからと一緒に行こうと誘われた。

 飲み会の場でも、みんなはあの問題はどう書いた?とか盛り上がっていた。一つ目の試験でボロボロだった私は半べそ顔で聞いていた。私が答えを迷った時事系の問題が書き直さない方が合っていたとわかり、いっそう落ち込んでしまった。

 その後も私は落ち込んでいるのがよほど顔に出ていたのか、他のクラスメイトたちにも心配され、慰められていた。試験がダメでも講座を修了すれば日本語教師にはなれるから。残りの実習を頑張ろう!と。年齢も性別もいろいろだけど、いいクラスメイトたちだわ。

 

 試験結果はどうなったか?私は合格しておりました。ところが、試験当日の飲み会で陽気に盛り上がっていたクラスメイトたちは全滅だった。あのとき私を慰めてくれたクラスメイトたちとの間に微妙な空気が流れた。

 大人になっての受講や試験勉強は大変だったけど、あんなに心の底から一喜一憂することはこの歳になるとなかなかない。アラフィフの私にとってかけがないのない経験となった。また何か資格試験勉強したいなぁ。