父の貯金箱
子どもの頃から、気が小さい私は些細なことでも罪悪感を感じてしまい、嘘や隠し事ができなかった。
子どものころ、私の父親は小銭を貯金箱に貯めていた。
昭和の父親なら大抵やっていたんじゃないかな。
毎日仕事から帰ってくると、ポケットの中の小銭を特大の将棋の駒の貯金箱に入れるのが日課だった。
そういえば男の人ってよくポケットに小銭を入れるよね。キャッシュレスに慣れてる令和や平成の若者はそんなことしないと思うけど。昭和の男性はお財布持っていても、小銭はじゃらっとポケットにっこむ人、多かった気がする。後で貯金箱に入れるからかな?
ポケットに小銭って、男性ならではだよね。デニムのポケットに小銭入れちゃうと、女性はお手洗いの時面倒ですから。
閑話休題。
その貯金箱、ではなく、貯金箱の中の小銭に目をつけた者がおりました。私じゃないですよぉ。はい、兄です(-。-;
兄は、保身のために、もとい、友人達を喜ばせるために、友人達に大盤振る舞いをしていたようなんです。
父によると、経済的に大変な友人家族の面倒を見てくれと当時小学生の兄は父に頼んだそうだから、純粋に友人たちを喜ばせたかったのかも。そういうことにしておこう、うん。
そんな兄だから、毎月のお小遣いはあっという間に無くなってしまったのだろう。それでも友人たちを喜ばせたい兄がキョロキョロすると、ばーん!
あるじゃないの、宝箱!
ここで兄は一計を案じる。
そもそも、毎日子どもたちの前で小銭が投入される貯金箱が今まで何故無事だったかと言えば、それは両親、特に父が厳しかったから。普段はニコニコ優しい両親だったけど、ひとたび逆鱗に触れると、母は素手だと(自分が)痛いから掃除機で叩いてくるし、父は容赦なく拳骨で殴ってきた。中学生になってからは蹴りというか踏みつける?も加わったわぁ(遠い目)
そんな父の貯金箱に手を出すなんて自殺行為だと思うのだが、兄は諦めなかった。なんと私をそそのかして悪事に引き込んだのだ!
当時からぼんやり真面目な私は、両親からの信頼は厚かった。そんな私を巻き込めばあまり叱られないので済むと思ったのか。もし叱られても妹の私と半分ずつになると思ったのか。当時から要領の良い兄は、上手くすれば妹の私のせいにして自分は叱られないで済むと思ったのか。そもそも小銭を取り出す方法がわからなかったのかも。多分、全部だ。
悪いことが出来ない私を引き込むため、兄は私の好奇心と創意工夫好きの性格を利用した。
つまり、入れた小銭はどうやったら出せるのか、お前、わかるか?と。
お金が欲しい様子など微塵も見せずに。
最初、二人で逆さまにして振ったりした。そのうち、投入口に紙を差し込んでみると、面白いように小銭が取れる。どんどん楽しくなり、どんどん取り出す。とうとうほとんど全部取り出せてしまった。満足した私が小銭を戻し始めると、兄は2〜3枚取っておけと言う。なんで?父のお金だよ?結局その時は全部戻した気がする。
しばらくして父が騒ぎ出した。貯金箱の中身が減っていると。兄の仕業だった。お金を取ることを拒否した私を誘うわずに一人で盗んでいたのだ。
何か知っているかと問い詰められた私は、罪悪感に耐えかねて、以前兄と二人で小銭を出して遊んだ話をした。でも全部戻した、本当だと訴えた。
その後、兄は父に叱られたのだろうか、その辺の記憶は曖昧で残っていない。
でも、あとで私を騙して、小学校一年生の恋心を友人たちと笑いものにしたぐらいだから、こっぴどく叱られたのだろう。